不利益を被っているからといって相手の悪意と決め付けてはいけない。
相手は正しいことをしていると信じている。「余計なお節介はやめてくれ」「何を言ってるの、これはあなたのためなのよ」自分の善意を信じて疑わない人は厄介です。
ユーロは欧州を一つにする共通通貨という夢を与えた。ユーロの導入が何をもたらしたか、ドイツは国民の勤勉さ、規律性がもたらす技術開発力 経済力が評価されるが故に自国の通貨も評価されてマルク高により輸出から得る利益が薄いという悩みを長年抱えてきました。
ユーロの導入により自国の実力とは切り離された通貨を手に入れ、ドイツは通貨安によって輸出から得る利益を大きくしました。ユーロの導入はドイツに通貨切り下げと同じ効果をもたらした。(財政規律のあやしいイタリア、スペイン、ギリシャはユーロを導入するとドイツとは逆に通貨高になる。)
得た利益から人件費の低い東欧に生産拠点を設け、生産品をユーロ圏外に輸出する。東欧の低い人件費によりドイツ企業はさらに利益を上げドイツ政府もEU内での発言力を高めました。
とばっちりを受けたのはフランスを含む旧西側欧州諸国とアメリカ、ユーロ圏でのシェアが低下した。
ユーロとはドイツ人を幸福(kouhuku/happiness)にし、ドイツ人以外は降伏(kouhuku/Surrender)させるシステムではないのかと疑問を呈しています。(そんな言い方してないけど)
(その疑問に対しては疑問がある。ソ連の崩壊によって旧ソ連圏の東欧諸国は国際競争に晒されることになったが、国際為替市場は東欧諸国の通貨の扱いに困る。
90年代のロシアはルーブル安に苦しんだが、2000年代に入り資源開発で息を吹き返し復活途上である。
ロシアのような資源に恵まれていない東欧諸国はそうはいかない、ユーロの導入がなければ今でも通貨安に苦しんで混乱と紛争に明け暮れる事態になっていたのではないか。
ドイツとは逆にユーロを導入すると通貨高になるイタリア、スペイン、ギリシャは通貨高になると輸出のみならず主力産業である観光収支が悪化するのにメリットはあるのか。
共通通貨は各国通貨当局が単独で通貨の発行量を決めることができない縛りがあります。
東欧諸国はユーロを国際市場復帰のための手段と捉えて国力を高めて自国通貨復活を目論むか、踏襲自体を目的としてユーロを使い続けるのか。
筆者は世界銀行のデータを用いてドイツ一人勝ちの様相を説明しています。90年代のドイツは東西統一の負担に苦しんでいました。1人当たりのGDPは2000年の時点ではポーランド、スウェーデン、フィンランド、バルト三国はドイツを上回っていたのに、2013年の時点ではドイツの半分に、ベルギー、オランダ、オーストリア、チェコ、スロベニア、クロアチアも2000年の時点でドイツを上回っていたのに2013年の時点でドイツの2割減、ユーロを導入していないイギリスはドイツと並び、フランスはドイツのコバンザメのように2番手で推移しています。
(イタリア、スペイン、ギリシャは2000年以前からドイツの3割減で推移、2005年から下降カーブ)
アメリカは格差社会で欧州は平等社会という考えは幻想、欧州全体を俯瞰すればドイツを頂点として2番手フランス、3番手ベネルクス、チェコやオーストリア等ドイツ圏といった序列が出来、今、最下層に潜り込もうとしている哀れなウクライナ、アメリカ以上の格差社会。
こんなことを続けていたらドイツが買うのは反感だがフランスが買うのは軽蔑。
ドイツ「逆恨みなんかしてしょうがない子たちね」、フランス「どうしていいかわからない」。
西のドイツと東の中国が連携してアメリカはユーラシアからはじかれ没落する。
(はたしてそうだろうかと思う、法治主義のドイツと人治主義の中国、筆者は社会の在り方と価値観を家族制度によって分類した人類学者でドイツは「直系家族」、中国は「外婚制共同体家族」という。
直系家族では兄弟は不平等に扱われ権威と不平等が価値をなしている。(日本もこの形態に分類されている。パワハラ体罰ブラックバイトを生む価値観があるということか、ドイツは権威主義的に南欧諸国との間に上下関係をつくって経済政策に口出ししているが悪意はない。)
外婚制共同体家族では兄弟は平等に扱われ権威と平等が価値をなしている。(フランス南部、イタリアもこの形態に分類されている。)
両国は今はお互い抑制的に付き合っているが、抑制が外れた時、生活信条に係る相違はイデオロギーの相違よりも根深い対立を生み出しかねない。)
ウクライナにおけるアメリカとロシアの衝突はドイツが無自覚に招いたこと。(陰謀論では覇権を狙うドイツの計略だと言うのでしょう。無自覚から生じる軋轢が陰謀説を育んだり説得力を与えて対応策としての計略を生み出してしまうのです。軋轢が先か計略が先か。)
権威と不平等価値のドイツの覇権よりは基本的価値を自由とするアメリカの覇権の方がまし、ドイツと中国の連携による覇権を抑えるためにアメリカとロシアが連携すべきという。
歴史のボタンの掛け違いを修正できるか問われている。
ユーロの廃止で最も痛手を負うのは最もユーロの恩恵を受けてきたドイツ。
(はたしてそうだろうか、アジア、アフリカのインフラ開発が進めば需要増で資源相場が高騰する。マルクに戻せばドイツはマルク高の恩恵を受けるのではなかろうか。
その状況でユーロの中にフランスが取り残されていたら貧乏くじを引くことになる。出口戦略を探った方がよいのではないか。)
本書のタイトルについて、「ドイツ帝国が世界を破滅させるー日本人への警告」とは刺激的なタイトルで目を引きます。しかしこの国に少なからずいるドイツ親派の人は鼻白むのではないか。
これは一体何のジョークだと立ち読みすらしてもらえないのは勿体ないと思う。
「和食も中華もフレンチもイタリアンもない、ドイツ料理だけ、そりゃ美食家にとっては破滅だ。」
筆者が穏健な思想を激越に表現するので編集者が感化されて激越なタイトルをつけてしまったのだろうか。
本書の内容を直訳的にタイトル付けすると「ドイツのお節介が世界を窮屈にするーフランスは何をやっている」
「中国、ロシアの脅威はわかり易い、ドイツの脅威はわかりにくい」、ドイツの役所、企業はまじめに課題に取り組んでいるに過ぎない。あくまでも原則、規則、規律、規格、規範で暗黙知が入る余地のない窮屈さをドイツの軍事力ではなくアメリカの軍事力を背景に東へ東へと進出して勢力圏を広げて無自覚にロシアとアメリカの衝突を招きかねない。
(さらに恐るべきことにドイツはロシア原油最大の輸入国なのです。迷惑客の類なのか。)
「まじめ故に混沌をもたらすドイツーEUの相克」「ドイツの覇権アメリカの没落」
刺激を得られる本ですがタイトルが読者層を限定してしまうのが残念なので☆ひとつ減らして☆4つとします。
「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)
- 作者: エマニュエル・トッド,堀茂樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/05/20
- メディア: 新書
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