nikoichixのブログ

新聞やテレビ、本を見て思ったことを綴っています。書いてみたらこんな展開になるとは思わなかった。まいっか。

振り上げた拳はどう下ろされるのか―スズキの燃費不正濡れ衣問題

国のルール通りに測定するとカタログの数値が良くなってしまう。

スズキよりも国のルールの方が甘かった。(結果論)

 

(2016年5月19日 日本経済新聞 1面 見出し「全車で燃費不正測定 スズキ 27車種210万台」)(同日3面 「効率優先、不正招く スズキ、改ざんは否定 会長「深くおわび」」)

(2016年6月1日 朝日新聞 1面 見出し「スズキ 社内監査働かず 燃費の違法測定 26車種」)(同日10面 組織の体質 浮き彫り スズキ各部門機能せず)

(2016年6月1日 日本経済新聞 13面 見出し スズキ燃費不正幕引き? 国に報告「影響ない」 販売に打撃、5月18%減)

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その結末は

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(2016年8月31日 日本経済新聞 11面 見出し「三菱自、遠い信頼回復、スズキ全26車種はクリア」)

(2016年8月31日 朝日新聞 8面 見出し「試験結果「いいとこ取り」三菱自「現場が選んだ」、スズキはズレなし」)

 

スズキ全26車種はクリア、スズキはズレなし

 

国交省は同じく燃費不正があったスズキの26車種についても独自に試験を実施したが、全てカタログ値を上回った(日本経済新聞)」

国交省は別の燃費不正があったスズキの26車種も測定したが、カタログ値より悪いデータはなかったと発表した。(朝日新聞)」

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車の燃費はどう測定されるか。

 

国土交通省所管の交通安全環境研究所でローラーの上で車を走らせて試験する。

路上の状態に近づけるため空気抵抗やタイヤの摩擦を考慮した「走行抵抗値」を(試験機に)入力し負荷をかける。

 

その抵抗値はメーカーが自己申告する。

 

燃費の数値を良くしようと意図して実際よりも低い抵抗値を申告することが「不正」に該当するのではないか。

 

抵抗値の測定方法「惰行法」

惰行法はギアをニュートラルに入れて車を走らせ、時速が10キロ落ちるまでにかかる時間を計測して抵抗値を計算する。

1991年に欧州で採用されている惰行法で測定するように定められた。

 

スズキが不正と指弾された理由は「惰行法」を使わなかったから。

 

「スズキのテストコースが海に近く丘の上にあり風の影響を受けるため、惰行法だとデータにばらつきが出ると判断し、室内で個別に測定したタイヤやブレーキなどの装置の抵抗と空気抵抗を組み合わせて「抵抗値」のデータを算出していた。」(参考:日本経済新聞 5月19日)※参考 文章の前後や接続詞を変えています。

 

惰行法はスズキに限らず、すべてのメーカーは屋外で計測するから天候の影響は避けられない。それが正規の測定方法ということです。

 

夏は計測しない方がいい惰行法

 

夏は湿気で空気抵抗が大きくなるのではないか(雨が降れば当然さらに抵抗が大きくなる)、タイヤがすぐに温まって熱くなって転がり抵抗が大きくなるのではないか。

春や秋の穏やかな風のない日に計測したら いい数値が出るのではないか。

季節と天候に左右される方式でいいのだろうか。

 

三菱自の例ではむしろ惰行法計測が不正の舞台になりました。日産の指摘がなければ、このまま発覚しなかった可能性があります。

 

スズキの現場は屋外での惰行法ではなく、室内での計測を行った理由のひとつとして

「同様の算出方法を欧州向けの車で使っており、「それほど悪いと思わずやっていた」(朝日新聞 5月19日)」

室内計測の数値でも欧州では不正扱いにならない。

欧州は「惰行法」発祥の地ですが、天候の影響を受けてしまう方法に必ずしも固執はしないということです。

 

結果的にスズキは実際よりも(燃費の数値がよくなる)低い抵抗値ではなく、高い抵抗値を国に申告していたことになる。

甘い結果が出るようにルールを墨守しなければならないのだろうか。

もしかして惰行法よりもスズキの方式の方が合理的なのではないか。

※墨守:古い習慣や自説を固く守りつづけること。融通がきかないこと。

国のルール通りに測定し直すと、今後、スズキのカタログ燃費の数値は良くなってしまいます。

 

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元々誰も信じていないカタログ燃費

 

カタログ燃費リッター30キロ、でも実際の路上ではリッター20キロ、30%以上も違う。でも違法ではない。国の定めた試験方法でちゃんと行っていたから。

誰も「30%も違うじゃないか」とメーカーに苦情を言いに行かない。

カタログ燃費とはそういうもんだと思っていた。

(Nicoichiもそう思っていた。)

 

www.toyota.com

トヨタ プリウスはアメリカのルールで測定したらリッター22キロでした。

(別に悪い数値ではない、現実であればいい数値です。)

当然 アメリカで販売する車のカタログの数値はアメリカのルールに則っています。

カタログの値と実際の乖離が甚だしいと、すぐ裁判になるのがアメリカ社会です。

なので実際と乖離の起きないような測定方法が採られます。

 

ところが国のルール通りの試験方法ではリッター40キロです。

でもカタログ数値通りに走らなくても誰も文句をいいません。

そんなことを言うのは大人げない。

カタログ燃費とはそういうもんだというお約束が日本の社会で成立しています。

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役所や政治家の公用車がカタログ数値通りに走らないからといって、けしからんと言う話になんかなりません。

与党も野党も問題にしません。

そんなことを言うのは野暮だというお約束になっているのだろうか?

忙しくてそんなことを気にしている暇がないのだろうか?

 

テレビ局や新聞社の社用車も社員のプライベートの車もカタログ数値通りに走らないからと言って批判報道になったりしません。

 

ルールを守るべきだとは言えても、ルールがおかしいと言えないのはなぜ?

(たとえ実態とかけ離れた数値が出るとしても)ルールを守るべきだとは言えても、(実態とかけ離れた数値が出る)ルールがおかしいとは言えない。

そもそも車の燃費を測っていないのではないか、忙しくてそんなことを気にしている暇はないんじゃないか。

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もしかして三菱も同じことを考えていた?

燃費なんてあくまでも目安、その通りに走らなくても誰も問題にしないと。

ならば抵抗値を高めに申告しておけばよかった。

燃費ナンバー1なんて目指さなければよかった。

そうすれば不正にならずに済んだ。

あくまでも目安なんだから、カタログ燃費ナンバー1なんて〇〇社にくれてやると。

 

見下しながら媚びていた?

三菱は実態に合わない数値の出る制度を見下しながら、制度の中でいい成績を取ろうとしたのではないか?それでは一貫性がない。

「法令では3回の走行試験の平均値をとることを定めている。実態は車種によっては往復60回の走行試験をしてデータをとり、その中から燃費計算に有利になるものを選びとるものだった。(朝日新聞 8月31日)」

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みんなわかっています。

カタログでもっとも燃費がいいグレードが売れ筋ではありません。

燃費スペシャルは転がり抵抗の少ないタイヤを履きます。

指定空気圧も高めです。

転がり抵抗が少ないということは路面に強いグリップをしないことです。

タイヤが路面に粘りついたら走行抵抗で燃費が低下します。

 

しかし道路の条件は変化します。

雨で濡れたり、砂埃で滑り易くなったりします。

ある程度 グリップしてもらわないと止まらない、曲がらない。

疲れないためには静かな車内がいい。ゴーゴーとタイヤの音が入らない方がいい。

せっかく大枚はたいて何年か使う車を買うのだから、同じ車種の中で選ぶならば装備が充実して、しっかり止まって曲がって静かでと考えて値段と相談して選びます。

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三菱とスズキの明暗を分けたのは一貫性の有無。

 

スズキは国のルール通りに行うと誤差が出るからと、ルール外の方法で正しい数値を出そうとした。

ルール内であれ、ルール外であれ正しい数値を出そうという一貫性があった。

ルール通りにやっているから間違ってもいいとは考えなかった。

責任を持って仕事をしたということではないか。

結果的に会社を救ったのではないか。

(無責任な人は指示された通りにしたことによって生じた結果に責任を感じない。実際に責任を取るかどうかは別にして)

だから「現場は反省している。苦労させてしまった。」「(国が定めた測定方法でデータが取れる)設備投資をすべきだった。」という鈴木会長の発言につながったのではないか。

スズキは巷ではトップダウン経営と言われています。ボトムアップがあれば騒動に巻き込まれなかったという気もするが、騒動によって国のルール策定によい影響を与えるのではないかとも思う。

そうなれば塞翁が馬ではないか。

 

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三菱自は燃費を5~15%よく見せかけていた。」

「スズキは再測定の結果、カタログ値より全ての車種で燃費は上回った。」

国交省「不正の全容解明について一定の説明がなされた。」

「4車種の生産を停止し、社長が退任を決めた三菱自。」

「スズキは積極的なテレビ広告や販売活動を続け、トップは続投する。」

(6月1日 日本経済新聞

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カー雑誌では不正問題の影響でスズキのモデルチェンジの型式認定が遅れるという観測記事が載っています。

2016年ワゴンR、スイフトのモデルチェンジ予定が2017年にずれこむ可能性があるという。

販売会社は年末商戦に間に合わないとやきもきしているのではないか。

 

ルール通りではなかったのだから、まったくのお咎めなしでは面子が立たない。

かと言ってあまりにも認定を先延ばしにすると、三菱とは違うのだからいいじゃないか と世間から意地悪をしているように見られてしまう。

お互いダメージにならないように落とし所をつけてほしいと思う。

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燃費のカタログ数値が劇的に悪くなっても構わない。

 

国は実態に見合った測定方法を策定してほしいと思う。

仕事でも私用でも公称値とかけ離れていたらおかしいと感じてほしい。

測定方法を見直した結果、劇的に数値が変わってもそれが現実として受け止める。

 

基準が変われば、測定値が変わるのは当然です。

ルール通りにしたら夢のような測定値が出る。

夢のような数字はカタログにはいらない。

 

それではまた。