1月3日 フォードモーターはメキシコ工場の新設撤回を発表しました。
まるで「メキシコ製品に35%の関税を課す。」というトランプ大統領の発言に応えるかのようでした。
1月3日を境に大統領のメキシコに投資する企業への「口撃」は激しさを増しました。
フォードのせいで流れができてしまった。トランプにすり寄った業界の裏切り者だ。
フォードは自動車業界の鬼っ子になってしまいました。
トランプ大統領に反発する人はフォード車の購入を避けるのではないか。
難民の入国を制限する大統領令にEU加盟国ではトランプ政権への反発が広がっています。その巻き添えでフォード車の欧州での販売に影響するのではないか。
権力に擦り寄るのも考えものです。
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1月5日、トヨタのメキシコ投資計画を「ありえない!」とツイッターに投稿。
1月23日 日米の自動車貿易を「不公平だ!」と表明。
事実としてアメリカから日本に輸入する際、関税はゼロです。
逆に日本からアメリカに輸出する場合は関税が2.5%かかります。(ピックアップトラックは25%という高関税)
不公平だと言うのであれば、アメリカに輸出する場合も公平に関税ゼロにするのでしょうか、そうはしないでしょう。事実を説明しても最初から分かりきっているのですから関係ないでしょう。別の取引材料にするのでしょう。
日本市場がどんなに開放的になっても売れるのは※ドイツ・ブランド車でありアメリカ・ブランド車ではないことは分かりきっているのですから、アメリカ自動車メーカーのために言っているのではありません。自動車をダシにして2国間交渉で農産物・金融・医療の解放を迫るための手段です。
自動車に気を取られて日本の自動車産業、市場の正当性を主張したところに返す刀で足元をすくいにくるのではないか。
タフな交渉になりそうです。
(※ドイツ車ではなくドイツ・ブランド車と表記した理由は、日本で売れるドイツ車とはメルセデスベンツ、BMW、フォルクスワーゲンといったドイツ民族資本の車だからです。
アメリカ資本のドイツ・フォード、オペル(ドイツGM)は日本での販売から撤退しました。)
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日欧韓メーカーの現地生産進出で、生産を減らした米国メーカー
(日本経済新聞 2017年1月30日 6面)
「米国内の自動車生産は2015年に1210万台と、ピークだった99年の1305万台に比べて95万台減った。」
「大幅に生産を減らしたのは米国メーカーである。」
99年 1003万台 →2015年 641万台 減少幅 361万台
(米国内での雇用を減らしました。)
日系は149万台、欧州系は70万台、韓国系は75万台の生産増
(米国内での雇用を増やしました。)
トランプ大統領の掲げる「米国人の雇用」に貢献しているのは外資系なのです。
輸出国を批判する。→アメリカに進出して生産する。→その分米国メーカーの生産が減る。という構図になりました。米国メーカーを保護することにはなりませんでした。
日本を叩く、批判をさけるために日系メーカーが現地生産を拡大する。米国のユーザーが米国メーカーではなく外資系の車を選ぶ、外資系であっても米国で開発し生産して雇用を生んでいるのだから愛国心も壁にならない。ますます米国メーカーの生産が減ることになる。
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「その間、米国メーカーが生産を増やしたのはメキシコである。」
2007年 106万台 →2015年 163万台 57万台増加
生産した分の75% 116万台が米国系のメキシコ工場からアメリカに輸出されました。(日系は43%)
トランプ氏の路線に近いのは寧ろ外資系の方でした。
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(日本経済新聞 2017年1月27日 11面
「フォードはトランプ大統領の就任前から環太平洋経済連携協定(TPP)からの撤退を主張、トランプ政権にドル高の是正を求めている。」
「背景には稼ぎ頭のピックアップトラックのシェアを死守したいという狙いがある。」
「ガソリン安が続く米国では、ピックアップトラックや大型SUVの販売が伸びている。」
フォードはピックアップトラックへの依存度が高い、TPPなど関税撤廃を目指す協議や、ドル高が進むと日本からの競合車の流入が進む、ピックアップトラックに頼るフォードにとって死活問題になる。という。
「フォードがトランプ政権にすがり、TPPからの離脱やドル高修正を訴える理由はそこにある。」
「日本嫌いで有名な会長のビル・フォード(59)(創業者 ヘンリー・フォードの曾孫)がトランプに近づき、日本たたきの流れをつくったとされる。」(同日2面)
今はよくても、長い目で見ればフォードの首を絞めることになるのではないか。
トランプ政権にすがる。政権が外資系を批判する。外資系が米国内でピックアップトラックと大型SUVの生産を拡大する。その結果、フォードの稼ぎ頭の売上が食われる。
自らの立場を苦しくするだけではないのか。
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外資系であっても米国人のエンジニアが設計し、生産現場で働くのが米国人なら政権は批判できない。
政権に助けを求めるよりもユーザーに選ばれる製品・サービスを実現するのが先ではなかったのか。
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「1995年 ※クリントン政権は日本車13車種の輸入に100%の関税を課すと突然通告した。」
「関税引き上げや米国製部品調達の強制を丸のみすれば、発足したばかりの世界貿易機関(WTO)を台無しにしかねない。」
(※ヒラリー・クリントン女史の夫君はトランプ氏に先駆けてWTOを骨抜きにしようとしていたのです。)(トランプ氏と同様、交渉の手段だったのかもしれません。)
(ビル・クリントンもドナルド・トランプも選挙人総数の過半数の票を取れなかった少数派の大統領です。)
「日本側が窮余の策としてひねり出したのはメーカーが現地生産や部品調達を拡大する「自主計画」だった。」
「カンター米通商代表部(USTR)代表と橋本龍太郎通産相は、100%関税の発動期限である95年6月28日に、自主計画の尊重という形の合意に達した。」
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クリントン政権時代からリーマンショックまでの間、フォードは繁栄を謳歌しました。
その利益でジャガー、ランドローバー、アストンマーチン、ボルボといった欧州の名門を傘下に収めました。
しかし、アメリカ流の車づくりで価格は名門という商売でブランドの旧来のユーザーが離反しました。
(FFエンジン横置きの欧州フォードのモンデオやアメリカフォードのリンカーンをベースにジャガーを仕立てるという素人目にもかなり乱暴なことをしていました。それで価格はフォードではなくてジャガーでした。)
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日本のマツダもフォードの傘下になりました。バブル崩壊で経営危機に陥ったマツダを提携関係にあったフォードの資本注入により再建することになりました。
現フォードCEOのマーク・フィールズ氏(56)はマツダの社長でした。通勤車はRX-7というカーガイでした。
マーク・フィールズ氏の経営の時代にマツダのラインナップはアテンザ、アクセラ、デミオ、RX-8、MX-5(ロードスター)、MPV、プレマシーという現行に近いものになりました。
アメリカや欧州の場合とは異なり、日本では経営資源は性能と品質の向上に投入されました。
マツダ再建の実績を買われてCEOに抜擢されたのではないか。
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リーマンショックで経営難に陥ったフォードは欧州の名門ブランド、そしてマツダの株を手放すことになりました。
米自動車メーカーが繁栄を謳歌している時代に資金を欧州ブランドを買い漁ることに使わずに、その分も技術開発や品質向上に投入していたら今日のような事態を招くことにはならなかったのではないか。
バブル崩壊後の日本経済は失われた20年と言われました。
クリントン政権の強力なバックアップを受けた1995年から2015年まではアメリカ自動車メーカーにとって失われた20年だった。
優秀な学生はデトロイトではなく、ウォール街やシリコンバレーを目指すようになった。
欧州、日本のメーカーを※シリコンバレーと連携したイノベーションで凌駕する機会をみすみす逃したのみならず、政権の支援を受けても先行き不透明な立場に追い込まれてしまった。
(※今日では当然、外資系もシリコンバレーと提携している(トヨタはマイクロソフトと、ホンダはグーグルと提携)ので米国メーカーに比較優位性はない)
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「金をサービスに優先させるのは本末転倒」ヘンリー・フォード
「利潤とは、仕事が立派に遂行された場合、結果として、後から生じるものと考えている。」
「先に利潤を決めるのは馬車を馬の前につないで馬車を走らせようとするのと同じである。」
「すべての企業にとって余剰金とは過去の業績に対して支払われたものではなく、将来の進歩を保証するための基金なのです。」
「不景気の種は私たちが好況期に犯す過ちの中にある。」
「不景気に対する私たちの処方箋は、常識に反し、価格を下げ、賃金を増加させることである。」
ヘンリー・フォードの精神は忘れ去られたのでしょうか。
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大統領の会見で質問を許されなかった記者の映像が話題になりました。
「CNNは嘘つきだから質問を許さない!」
CNNの記者はトランプ大統領から質問することを許されませんでした。
質問をさせてくれないのなら、独り言を言えばいいんです。
「おいっ何を言ってるんだ、質問していいとは言ってないぞ。」
「独り言(ツィート)です。」
「独り言は許さん!出て行け!」
記者は目をキラキラさせて「独り言(ツィート)はいけないんですか?」
「そうだ!」
嬉しそうに出て行くんです。
それではまた。
追記(日本経済新聞 2017年3月13日 朝刊 4面)
米国 トランプ大統領「ドイツ車は米国でよく売れるが、米国車はドイツでは見かけない。アンフェアだ!」
ドイツ ガブリエル外務大臣「米国がもっとましな車を作ればいい。」
言ってくれましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。