米入国制限に司法「待った」 トランプ氏は反論 (写真=ロイター) :日本経済新聞
(日本経済新聞 2017年2月6日 1面)
「米入国禁止差し止め「取り消しを」 政府の訴え 控訴裁却下」
4重否定の見出しです。禁止、差し止め、取り消し、却下 という4つの否定表現が並んでいます。
禁止(入国させない)、を差し止め(入国させる)、を取り消し(入国させない)、を却下(入国させる) 結論は 入国させる ということです。
1月27日 トランプ氏はイスラム圏7カ国(イラク、イラン、イエメン、シリア、ソマリア、スーダン、リビア)の一般市民や、シリア難民などの入国を制限する大統領令に署名しました。
7カ国の市民は90日間、入国させない。
シリア難民は入国審査が厳格化されるまで受け入れ停止。
すべての国の難民は120日間、入国させない。
という内容でした。
大統領令に伴い6万人弱のビザが無効となり、航空機の搭乗を断られたり、米国内の空港で入国を拒まれる事例が相次いだ。
(偶々出国していて帰国した人は家族に会えなくなりました。)
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1月30日
排外的な内容に内外から批判が噴出し、署名の3日後 1月30日 ワシントン州とミネソタ州は共同で、移民やその家族の権利を侵害する大統領は違憲として提訴した。
アマゾンドットコムやマイクロソフトは訴訟を支援する立場を表明。
トランプ大統領と政権幹部、国土安全保障省を訴えた。
マサチューセッツ州、ニューヨーク州、バージニア州、ハワイ州も反対する市民団体の訴訟に加わり政府を相手取った裁判を始めている。(2月4日 1面)
2月3日
ワシントン州の連邦地裁は審理する間の暫定措置として大統領令の効力を一時差し止め、それを全米に適用すると命じた。
7カ国の市民らの入国が再開。
逆に入国制限が困難になった。
(日本経済新聞 2017年2月5日 1面から要約抜粋)
「ホワイトハウスは「国土を守り、米国人と守る権限と責任がある」との声明を出し、大統領令の正当性を主張。今後は法廷闘争に移る。」
「米国の連邦裁判所は日本と同じ三審制であり、最高裁まで争うことになれば、違憲・合憲どちらの判断が下るにせよ、数年かかる。」
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つまり数年は入国審査の新しいルールを適用することが困難になった。
逆にトランプ氏の目論んだ厳しい入国制限の実現が遠のいたのです。
※入国審査の現場は7カ国への対応に追われて混乱しました。
「準備不足だ。」(共和党 ルビオ上院議員)与党共和党からも批判が出ました。
現場の混乱に乗じて、その隙を突かれて7カ国以外から入国されてしまったのでないか。と逆に心配になりました。
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対象7カ国(イラク、イラン、イエメン、シリア、ソマリア、スーダン、リビア)の内イランを除く6カ国は紛争地帯です。
紛争地帯からテロリストが侵入するという理屈ならばなぜアフガニスタンやウクライナが対象にならないのか。
紛争地帯ではないイランを含めたのはイランと断交しているサウジアラビアへのメッセージか。
テロリストの侵入を断固阻止するのであれば、テロリストの往来が自由だと批判したEUからの入国は止めないのか。
シェンゲン協定に加盟していない英国経由での入国を求めないのか。
そんなことをしたら経済界から総スカンを食らう。そこまでやれば弾劾される。
計算の上での寸止めの7カ国のセレクトか。
※国務省職員の約900名が大統領令を非難するメモに署名。(日本経済新聞 2月2日 6面)
アップル、スターバックス、エアビーアンドビー(民泊大手)、ウーバーテクノロジーズ(ライドシェア)、ナイキ(スポーツ用品)、ゴールドマンサックス(金融大手)、フォードモーター、GE(ゼネラルエレクトリック)が異議を表明(日本経済新聞 1月31日 朝刊、夕刊 1面)
トランプ氏にすり寄ったフォードモーター(前回参照)も異議を表明しました。
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(なんてエゲツナイ事考えるの)
だってメディアや各国政府の人道的見地による批判では「キレイごとだ」と一蹴されて暖簾に腕押し状態なんだもん。
米国の世論調査(ロイター)(日本経済新聞 2月1日 夕刊 3面)
入国制限に 賛成 49% 、反対 41%
より安全になる 31%、より危険を感じる 26%
抗議活動の様が報道されているけど実際は賛否が分かれている。賛成が上回っている。
難民を雇用すると表明したスターバックスに対してはトランプ支持者が不買運動をする。
(日本経済新聞 2017年2月8日 朝刊 6面)
「バーニー・サンダース上院議員を応援した民主党支持の若者(18~29歳)の一部がトランプ支持に転向」
「既存メディアや大企業から距離を置くのも好ましい。これは体制への抵抗だ。」
トランプデモクラット(トランプの民主党員)という新たな支持層が台頭している。
政治家やメディアが所謂正論を言ってもスルーされているというのが現状です。
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あいまいな大統領の権限
合衆国憲法第2条第1節には「執行権は大統領に属する」としか書かれていない。
議会が命令発効を禁じる法律を制定したり(第1条第8節 連邦議会の権限)、連邦最高裁が違憲判断を下せば効力を失う。(第3条第2節 管轄権)
大統領はなす術がなくなります。これが法治国家というものです。
本気で入国制限を厳しくしたいのなら官僚、与党、議会、経済界への根回しが欠かせない。
全員が賛成することはない、情報のリークにも気を遣わなければならない。
現場が混乱することなく対応できるように準備は欠かせない。
そんな時間はかけていられない。一刻も早く実行すべし、事を急いだ結果が却って実現を困難にしたのが実情です。
大統領になれば独裁者も同然の権限を得られると思っていたのでしょうか。
地場の自営業の社長が自治会長やPTA会長になって、会長だからなんでも自分で決められると思っていたら自分の会社とは勝手が違った。委員会に謀らないと、予算の根拠は、規約に則ってください、総会で決議しないと、と言われて困惑しているみたいな状態なのか。
大統領ってそんなに自由じゃない。面倒なことばかり抱え込まされるのが実情ではないか。
クリントン(夫)もブッシュ(子)もオバマも任期を終えてホワイトハウスを去るときに髪に白いものが増えているのは年を重ねただけが理由ではないのだろう。
側近が、スタッフが、俺たちが、私たちが、何とかしなくては、と思わせる人徳如何が政権の行方を左右すると思う。
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史上最大のバーゲン
(日本経済新聞 2月4日 夕刊 3面)
「戦闘機F35 値下げ合意 90機で820億円(7億2800ドル)減額」
「機体1機あたりの平均価格は始めて1億ドルを下回る」
1機あたり9億1千万円の値下げだって! 戦闘機の値段って超テキトー
しかもスケールが桁違い!
今まで値下げ要求なんてされたことないんじゃないか。そんなことを考える大統領が出現するなんて想定外だったのではないか、で いきなり大盤振る舞い。大丈夫かロッキード。
「米メディアによると国防総省は2400機超のF35の機体購入を計画しているという。」
数で帳尻を合わせる算段なのでしょうか。
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間隙を突いて中国は豪州に接近
(日経 2月8日 7面)
中国の王毅外相は7日、オーストラリアの首相キャンベラを訪問し、ビシュップ外相と会談した。
「中国に環太平洋経済連携協定(TPP)離脱を決めた米国に代わり、中国も参加可能な新たな自由貿易体制の構築に向けて主導権を握りたい思惑がある」
豪首相ターンブル氏はトランプ大統領との電話協議で難民受け入れめぐって激しく対立した。
中国のとっては渡りに船となった。
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誤算だった 英 メイ首相
1月27日(ななんと入国禁止の大統領令にサインした日)に いち早くトランプ大統領と会談し、英国が米国とEUとの橋渡しをアピールして3月から始まるEU離脱交渉に向けた地ならしをしたいところが、EU首脳からトランプ政権への批判噴出でそれどころではなくなった。
トランプ大統領は英国のEU離脱を「すばらしい!」と絶賛していたのに逆にネックになってしまった。
自分が実現したいこと、賛成していることの邪魔を自分でしている状態です。
それともホンネは別のところにあってかく乱しているの?
それではまた。