(日本経済新聞 2016年3月21日 経済教室面 ゼミナール 住宅市場の未来-富士通総研)
「日本の住宅市場の特徴は、取引される住宅の大半が新築であることだ。」
「2013年には全住宅取引のうち85.3%が新築だった。」
「海外では中古住宅の取引が多い。例えば米国では新築の比率は10.7%にとどまる。(2010年)」
中古住宅の取引が日本は15%弱、アメリカは90%弱!
「2020年以降は世帯数が減少し、住宅需要も縮小し始めるだろう。」
「新築着工と取り壊しが現状のペースで続くと仮定して試算すると、2033年には空き家率は25.8%に達する。」
(2016年3月22日)
「第二次世界大戦前は、持家は必要な手入れをして次世代に受け継ぐのが普通だった。
長持ちするよう気候に合わせて構造も工夫された。」
「だが戦後から高度成長期、住宅不足を解消するため新築が大量供給される中、人々の考えが変わった。供給を急いだために個々の建物の質が落ちた。」
「土地は上がり続けるとの考えから土地取得が重視され、建物の価値はさほど重んじられなかった。」
土地神話だね。
「業者にとっては住宅の頻繁な建て替えは好都合でもあった。
住宅を立てては比較的短期で壊すことが習慣化した。」
「国土交通省の調査では、住宅を取り壊すまでの年数は
日本 30年前後
米国 70年弱、英国 約80年」
半分以下じゃん。
日本は一世代しかもたないという。住宅にお金が出て行くから他の消費に回す金額が絞られている。
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(2016年3月25日)狭い貸家、節税で増加
「総務省によれば2013年の持家の床面積は平均122平方メートルだった。英国やドイツより広く、欧米と遜色ない。」
「一方で賃貸住宅の面積は平均46平方メートルで、80平方メートル前後の欧米と比べかなり狭い。」
・賃貸住宅は、節税対策で金融機関から資金を借りて建設する。
・建物の費用を抑え家賃収入の利回りを上げる。
・また単身者向けなら居住者の回転が速く、立ち退きなどトラブルが少ない。
→このため小規模な物件の供給が主流となる。
→家族向けの広い物件を建てることは少ない。
「もし賃貸市場に十分な広さで手ごろな家賃の物件が多数あれば無理に(持家)を購入することはないだろう。」
「しかし日本では、持家でなければ広く良質な住宅を確保しにくい。」
とにかく新築の家(マンション含む)をローンを組んで買えということ。
家族の将来のためには教育にお金を使いたい。家族で旅行や観劇や文化施設で過ごす時間を大切にしたい。車や家電にもお金をつかいたい。
家のローンに縛られた上に、欠陥問題が起きればお金と時間が取られる。訴訟沙汰になれば訴える側にとってもストレス。
他のことにもっとお金を使いたいのに住宅に時間とお金を取られる。
短寿命住宅、欠陥住宅は他の業界にとっては機会損失の一因。
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「賃貸住宅にも新築志向がある。」
「新築時には満室になるが、長く維持することは難しい。」
「総務省の調査では賃貸の空室率は2013年には18.8%だった。」
「古い物件は、立地が悪いとすぐに空室が増える。」
「今後、老朽化した賃貸物件が管理放棄された場合の潜在的問題は大きい。」
「住宅を取り壊すまでの年数は日本は30年前後」
30年の家賃保証とは建物の寿命のことなのか。
30年のローンを組んだら、ローンを完済する頃には建て替えのタイミングとなり新たにローンを組むってことか。
(2016年3月24日 朝日新聞 社会面)
「貸家の欠陥放置 住人けが相次ぐ」消費者庁 貸主に修繕義務
・腐食していた外階段の踏み板が外れ、転落により右足を負傷
・雨漏りによるカビの発生で、子供のアレルギーが悪化。
・浴槽の底が抜けて、左足の靭帯(じんたい)を損傷。
・台所設置の電気コンロがリコール対象品なのに大家が交換に応じない。
・据え置き型電磁調理器から漏電し、電力会社から使用を禁止された。修理を求めた不動産会社から連絡がない。
「2009年9月の発足以来、消費者庁には、賃貸住宅の建物や、備え付けの設備によって生命や身体に危害を及ぼす情報が計653件寄せられた。
けがが発生した事案は323件で、うち死亡事故は1件、1ヶ月以上の重傷も25件あった。」
「寄せられた情報の約2割にあたる147件は「対応してくれない」という訴えだった。」
「消費者庁は「貸主側が応じない場合は消費者ホットライン(電話188)に相談を」としている。」
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持家所有者は転売に困る。
寿命30年?!
ローンを払い終わった頃には価値がなくなるのではないか、大金をかけて手入れをしても仕方がないではないかという判断になる。
将来の中古市場でますます売り難い物件になります。
若い時に買ったときは見晴らしがよくていいと思った。年を取ったら坂道がきつい。平地の物件を買えばよかった。
子供たちが同居しないなら家が広すぎて手入れが大変だ。
買い物も遠くて大変だ。街中のマンションに引っ越そう。
それなのに売却益でカバーできないのは困る。
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実は市場原理が働いていない住宅市場
市場原理が働いているなら、値下がりしない、或いは値上がりする物件があってもいい。
いい物件は値上がりする。よくない物件は値下がりするのが市場原理です。
(イギリスでは新築より高い中古もある。実際に人が住んで使っていることで住宅の性能が証明されているということです。)
よい物件は高評価高価格。よくない物件は値下がりするという市場原理が働かない状態では関連業界は資産価値を向上させるというインセンティブが働かない。
より高く売れるように業者も居住者もメンテナンスに熱心になる。
資産価値が下がるリスクのある造りを避けるようになる。
より高く売ることが出来た居住者が転居先購入の資金を得る。
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将来、新築市場は細っていくので住宅メーカーも仲介業に参入する。
販売した顧客の転売を仲介する。
メンテナンスを請け負いながら、子、孫と同居することになったから増築、
或いは街中のマンションへの転居を考えているから自宅の転売やマンションへの転居の仲介を請け負う。
新築受注、販売益に中古転売仲介益も重ねることが出来るようになる。
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賃貸住宅の場合
30年で建て替え?!またローンを組むの?年だから無理だよ。
管理会社が部屋を埋めてくれるけど家賃が下がってきた。
家賃を下げないと部屋が埋まらないという。
地元の不動産屋に聞いても経年劣化して面積も広くないから高い家賃を設定できないという。
「もし賃貸市場に十分な広さで手ごろな家賃の物件が多数あれば無理に(持家)を購入することはないだろう。」
「今後、老朽化した賃貸物件が管理放棄された場合の潜在的問題は大きい。」
空き家問題が賃貸住宅にも波及するということか。
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国の税制には居住用が240平方メートル以下、事業用が400平方メートル以下の土地なら相続・寄贈で取得した親族について80%の評価減という特例措置があります。
相続税節税のために規定の面積に収めて部屋数も稼ごうとしたら狭い部屋になるということか。
税制を改めて上限を変更しても、利回り重視で上限変更枠分を部屋数を稼ぐことに使えば同じことの繰り返しで広い部屋は実現しません。
そんなことを繰り返しているうちに部屋を埋められないときが来ます。
それが2020年以降という。
条件のよくない賃貸物件から淘汰が始まる。
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住宅メーカーと家賃保証契約を結んでいるから大丈夫。
ということは住宅メーカーが苦しくなる?
ボランティアではないのだから保証をしても損をしない仕組みにするだろう。
利益を確保する算段は取っている。
そうでなければメ-カーの出資者が納得しません。
市場が縮小すれば、メーカーの淘汰が始まります。
万が一契約先の管理会社がつぶれても大家さんは巻き添えにならない算段を取るしたたかさが求められます。
契約先がアブナイと察知して契約先を変更する。
人口縮小の上に世帯数も縮小する時代の大家さんって大変。
管理会社に頼らない、管理会社を使ってもしたたかに交渉する大家さんが残る。
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仕事の価値観が変われば住宅の価値観も変わります。
ローンを組んで待望のわが家を買ったら転勤の辞令が出て単身赴任というサラリーマンの悲哀はよく耳にする話です。
家を売ってもローンの残債の方が高いから借金が残るだけ、売るに売れないので単身赴任を選ぶ。
夫の転勤先に妻の転職先がない。或いは妻の転勤先に夫の転職先がない。
結果、単身赴任を選択する。
赴任先と家の行き来の費用と時間で疲労困憊してパフォーマンスが低下したり、続かなくなるのは本人のみならず雇う側にとっても損失ではないのか。
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男女の転職が法律上のみではなく事実上自由になれば、持家信仰は崩壊します。
持家は基本的に事業の本拠を移動しない自営業者の建てるもの。
異動のあるサラリーマンは賃貸に住む。(役員になっても子会社への出向もありえます。)
持家信仰が崩壊すれば、賃貸住宅の需要の多様化が進みます。
現状の物件では飽き足らない層が出現します。
住宅が長寿命・高品質化すれば中古の価格も上がります。
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持家も賃貸住宅も市場原理で評価される。
みんな値下がりするのではなく、上がる場合もあれば下がる場合もある。
高価格が維持できればオーナーは転売益を手にする。メーカーはメンテナンスを行い建物の価値を守る。手にする仲介料も増える。
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不動産鑑定評価基準の変更(従来は減価のみだが増価もある)と併せてお金が絡む話になるので不適切な業務の監視や罰則の整備も必要になります。
可処分所得が向上して他の消費財に資金を回すことが出来るようになるのではないでしょうか。
それではまた。