(日本経済新聞 2016年6月12日 1面 アジアひと未来)
「2013年 インド後発薬 大手ランバクシー・ラボラトリーが米国への5億ドル(540億円)の和解金支払いに追い込まれた。
治験データの改ざんが次々見つかる。
安価な薬を世界で売りさばく経営戦略で品質は後回し。
オーナー一族による徹底したトップダウン経営。
気付いていても、みな職を失うのを恐れて口をつぐんでいた。
身内の暗黙のルールに疑問を差し挟む異端は排斥される。
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告発者であるディネッシュ・タクール氏(48歳)はインド生まれ。
渡米留学し化学工学を修め米製薬大手で11年間薬品開発に携わった。米国籍も得た。
それでも母国の医薬産業発展に賭けて帰国した。
2003年ランバクシー・ラボラトリーに転職した。
転機は1年後に訪れた。英製薬大手から移籍してきた上司が苦渋の表情でそっと打ち明けた。
「この会社は闇を抱えている。極秘で調べてくれ。」
不正の調査結果を経営会議にかけた上司は直後に退社した。
タクール氏は会社から嫌疑をかけられた。
「会社端末からポルノサイトにアクセスした。」
(言いがかりをつけて追い出そうとしたんだ。)
2005年春、退職を決意した。
医薬は患者のため。
不正の証拠は保管していた。
米食品医薬品局(FDA)に直訴状を送った。」
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なぜインド当局ではなくアメリカ当局に訴えたのか?
それはインド当局トップの言葉が象徴しています。
「中央医薬品基準管理機構のトップ、G・N・シン(56歳)は嘆く。「内部告発者に敬意を表する。だがそこに愛国心はあるのか。」
タクール氏は米政府から4800万ドル(51億8400万円)の報奨金を受け取った。」
アメリカに移住して悠々自適の生活が出来るお金です。
しかしインドに残ってインド製薬業界を相手取った裁判を起こして品質向上を訴える活動を続けている。
自宅に警備員を雇い、身の安全を守り、裁判を起こし国産品の品質向上を訴える活動を続けている。
そのために報奨金を使っている。
お金がなければ闘えない。
エライ人が言う通りに愛国心がなかったらとっくに米国に移住している。
悠々自適の生活をしている。
そんなこともわからない人が中央医薬品基準管理機構のトップを務めている。
いい人か悪い人か知らないが鈍い。当事者意識がない。
FDAに訴えて正解だった。
わかっていない人をトップに戴く組織に訴えても無駄になる。
下手すれば闇に葬られていたかもしれない。
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トップに悪気はない。下が何をやっているか知らないだけ。
知らないということを知らないだけ。
自分が知らないということを知らないのだから知ろうとは思わない。
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ランバクシー・ラボラトリー社の不正を摘発できなかったインド当局は何をやっていたのか、規制がザルではなかったのか。
FDAに先を越された。
自国民は母国の当局ではなくアメリカの当局に訴えた。
自国民に信用されていない。
面子を潰された。
愛国心がないと嘆く。
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「FDAと司法省は2008年、ランバクシー社に輸出禁止などの是正策を発動。
事態を見誤った第一三共がランバクシー社を一時買収。
結局はインド同業に売却しランバクシー社は実質消滅した。」
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タクール氏が活動を続けることができるのはインドの希望。
供給者の利益が第一で消費者、労働者の利益は二の次で安全軽視。
そんなことをしていたらインドの工業は世界に向けて発展できない。
輸出をしても消費者からそっぽを向かれる。
輸出先で制裁を受ける。
地方政府の肝いりの事業だ。ケチをつけるのは許さないと圧力を加えるどこかの国みたいなことをしたら投資を控える。
国内で抗議ができず亡命して発信するしかない国は改善が進まない。
いずれ行き詰って発展が頭打ちになると引き上げ時を考える。
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人権は国益になる。
薬の安全性は世界共通の消費者利益です。
ガラパゴスな価値観とは違います。
(何でも賛成するだけの人は裸の王様育成器のようなものです。
何でも反対するだけの人も裸の王様育成器のようなものです。
よい部分も認めないで全否定されたら隠蔽体質を正当化してしまいます。
わからん奴らに言っても無駄だと裸の王様体質を強化します。)
第二第三のタクール氏のような人物が現れて活動できるようになることはインドの将来性を世界にアピールすることになる。
恥ではなく誇るべきことです。
それではまた。